騎士達は怯む事無く、何度も立ち上がって くる。

　男は剣を構えると、向かってきた騎士を一人ずつ薙ぎ倒していく。あれ程人数がいた護衛騎士も、一人、また一人と数を減らしていき、今では数えるほど しかいない。
「……もう一度言う、我々は無駄に争うつもりはない。この村の聖女を引き渡し、村内で我々の探し人の調査をさせて頂けるのなら、村には一切手を 付けないと誓う。これが最終勧告だ」
　男の後ろで、少年がよく通る声で言った。その言葉に、騎士達もじりじりと下がり始める。

　聖女がどこにいるか探す必要は なかった。
　道行く人に尋ねるだけで、この村に聖女がいることは簡単に分かったのだ。
　ただ予想外だったのは、村の警備が想像以上に厳しく、ここまで時間が掛かっていることである。
　無闇やたらに飛び出してきた、聖女の護衛と名乗った者達より、村の入り口を固め、防護柵の間から一斉に矢を射ってくる村人達の方が遥かに厄介だった。

「……予想外だね」
　少年が男の隣に立って言う。
「ええ、よく鍛えられていますし、防衛陣型も効果的です。今のままでは崩せません」
「対策は？」
「一斉に突入させるか、もしくは長期戦を覚悟するか……どちらにせよ、あまり有効ではありませんな」
「こんな所で兵を失う訳にはいかない。 突入はなしね」
「了解しました」
　騎士達は陣地に引っ込み、一時的に休戦状態になっている。
「……もう一度、魔術攻撃を試みますか？」
「無理だよ、魔法障壁が 強すぎる。専門の魔術師ならともかく、僕たちでは破れないよ」
「では、打つ手がありませんな」
「断言しないでよ……」
　男はまるで他人事のように言う。
「山 の方から行かせた奴らは？」
「二手に分かれて進ませてますが、山中にもトラップが多数あり、まだ攻略できてないと…」
　山にまでトラップが仕掛けられているとは、本格的な戦いの専門家が村 にいると見て間違いなかった。
　村人の戦い方も、それを裏付けている。
「下手をすると、カイゼル軍が救援に来るかもしれない。この人数じゃさすがにかなわ ないだろうし、何か手を考えないと……」
「向こうが痺れを切らして出てきてくれればいいんですがね……」
「まさか、さすがにそれは……」
　そこで男の言葉に応じる ように、村の門が開いた。
「あれ？」
「総員、戦闘準備！」
　男が声を上げる。兵達が一斉に剣を構えた。後ろでは、弓隊が入り口に狙いを定める。
　男と少年は、今にも村人達が飛び出してくるものだ と身構えた。
　しかし……

　「お前らかっ！ルナを狙ってるって奴らは！」
　
　門から出てきたのは、一人の少年だった。
　茶髪で、勝ち気そうな目をこちらに向けている。
「子供……？」
「子供だね……」
　二人の言葉に、茶髪の少年は怒鳴り返す。
「子供子供って、お前も子供だろ！？」
　その言葉を聞いたとたん、男は大声を上げて 笑いだした。
「はははは、た、確かに……見てくれも中身も子供そのものですな……」
「わ、笑うな！ というか同意するなっ！ 見てくれはともかく、『中身も』と はどうゆう意味だよっ」
「そのまんまの意味です」
「くっ……」
　少年は唇を噛むと、クルリと茶髪の少年に向き直った。
「……と、とにかく、ここは君みたいな子供の出る幕ではない」
「だから、お前も子供だろっ！」
「勘違いしないでくれ。私はこう見えても、君の何倍も年上だ」
「おや、一人称を『私』に改めたんですか？今更無駄だと思いますが……」
「うるさいっ、ちょっと黙っててよっ！」
　少年は再び茶髪の少年に向き直る。
「我々は君たちの村に交渉を求めているんだ。だから……」
「だから、俺が出てきた んだよ」
　茶髪の少年が言う。
「……どういう意味ですかな？」
「俺はクルト村自警団副長のカイル・クロスフォード。自警団は領主様から村の防衛を一任されてる。どう、 まだ不満？」
　少年と男は顔を見合わせた。
　
「……なるほど、あなたが交渉役というわけですか」
「そゆこと」
「で、我々の要求に対する回答は？」
「そんなのモ チロン……」
　茶髪の少年・カイルは剣を引き抜いた。
「……ＮＯに決まってんだろっ！」
「残念ですな」
　男も剣を引き抜く。
　それに合わせて、男の後ろに控える 剣士達も剣を構えた。
「……この人数相手に一人で戦うと？」
「へっ、さっきから言ってるだろ」
　少年は怯える様子も見せず、むしろ微笑んでいるように見えた。

「だから、俺が出てきたんだよっ！」

２００６年１月２５日更新