第五話


101飛行隊

 昼間だというのに、部屋の中は薄暗かった。
 
 窓にはしっかりとブラインドが下ろされていて、部屋の中心にはソファーと大きなテーブルが置かれている。
 部屋の奥には扉があり、『隊長室(執務室)』と書かれたプレートがはめ込まれていた。
 入り口から向かって左側の壁には真ん中にくぼみがあり、中は給湯室になっているようだ。
「まだ皆さん、寝てるみたいですね」
 三村が小声で言う。
「えっ?寝てる?」
「はい」
 そう言って三村は手前のソファーに近づいていく。
 よく見ると、テーブルを囲むように置いてある四つのソファーそれぞれに誰かが寝ているようだった。
 大きな毛布の膨らみがあり、それがわずかに上下に揺れている。三村は一際大きな膨らみに近づくと、翼の方に振り向いて言った。
「冷蔵庫から牛乳取ってもらえますか?コップも中に入ってますので」
「えっ、うん……わかった……」
 翼が給湯室に入っていったのを確認して、三村は毛布の膨らみに向かって声をかける。

「……隊長、ちょっと起きてください……大変なことになりました」
「……どうした?」
 低い声が聞こえて、ゆっくりと毛布が持ち上がった。



 給湯室に入り、翼は冷蔵庫を開けた。
 中には牛乳、リンゴジュース、オレンジジュースなどの飲み物で一杯だった。中から紙パックの牛乳とコップを取り出す。
 それを持って部屋に戻ると、見知らぬ男、いや少年が部屋の中に立っていた。
 大柄な少年だ。
 少年は翼をじっと見つめている。
「……なるほどな」
 少年がポツリと呟いた。
 真っ黒な髪が闇の中で際立っている。
 少年はドアの方まで歩いていくと、壁ぎわのスイッチを押した。鋭い音がしてブラインドが上がり、部屋に明かりが満ちていく。
「三村、田島と大橋を起こしてくれないか?」
「はい、わかりました」
 三村がソファーの方へ向かうのを確認すると、男はゆっくりと翼に近づいてきた。
 
 ネームプレートと襟章が大尉であることを示している。
 右胸には国王に認められた証の、『マスターパイロット』のワッペンがついていた。
 右肩には101隊のマークである『黒い猫』のワッペンをつけている。
 間違いない、この人が石月隊長だ。
 翼は確信した。

「……君が青葉少尉だな?」
 男が問い掛けた。
 目は翼の顔を真っすぐに見つめている。
「は、はい!本日から配属になりました、青葉翼少尉です!よろしくお願いします!!」
 ありったけの声で翼は言った。
 隊長は目を丸くしていたが、
 やがて……、

「やっぱりな……」
 
 そう一言呟いた。
 そのまま、ゆっくりと顔をほころばせる。
「……元気だな、いいことだ。俺は101隊の隊長をやっている石月だ、よろしくな、少年」
 そう言って手を差し出す。
 翼は慌ててその手を握った。大きくてごつごつした手だ。
「えーっと、三村にはもう会ったんだよな」
「あ、はい」
「となると……」
 そう言って石月隊長は横に目をやる。
 そこには、新たに三人の人物が立っていた。どうやら残りのソファーで寝ていた人達らしい。
 三人とも三村よりは背が高いが、それでも大柄とは言えない体付きだった。
「……目は覚めたのか?」
「おうっ、おっきな声のおかげでね」
 右端に立っている男、いや、少年が答えた。
 そのまま翼に目を向ける。
「それで、こいつか?新入隊員って……」
「ああ……」
 
 一瞬、二人の間で何かが交わされる。
 
 翼は思わず隊長の目を見たが、その考えを読み取ることは出来なかった。
 隊長は翼に目を向ける。
「紹介しよう、少年。右が田島大尉、うちの三番機を務めている」
「田島雄太だ、よろしくなっ。えーっと、ツバサ……でいいか?」
 田島大尉が近寄ってきて手を差し出す。
「は、はい。よろしくお願いします」
 翼は慌てて返事をした。
 田島大尉はニコニコと笑顔を絶やさない。
「しっかし、ちっちゃいなー、身長どれくらい?」
「155ですけど……」
「マジで!?ミムよりちっちゃいんだ。規定ギリギリじゃん!よかったな、ミム。チビ助軍団に仲間が出来たぜ」
 三村大尉の方を向いて田島大尉が声をかける。
「チビ助軍団?」
 翼は思わず声を出す。
「おう。三村を筆頭に、その他うちの基地のチビ助ども。それから、引退して青北で教官やってる田中っ てやつ、こい つら 合わせて『チビ助軍団』って言うんだ」
「……ユータさんが勝手に考えたんですけどね……」
 三村が憎々しげに言った。
「いいじゃん、わかりやすくて」
 田島大尉はケラケラ笑っている。

「田中って、田中優(たなかまさる)大尉ですか?」
 翼は思わず声を上げた。

 第五話 4 完

2005年 8月14日 掲載