第五話
3 パイロット 「……しかし、よくもここまで見事に迷いましたね」 歩きながら三村が尋ねる。 「101隊は中庭を挟んで反対側ですよ」 「えっ!?そうなの?」 「はい、全くの逆方向ですね」 つまり自分は見当違いの方向を探していたことになる。何だかどっと疲れが出てきたような気がした。 そういえばこの三村と名乗った少年は何者なのだろう? 辺りはスクランブルで怒声が飛び交っているというのに全く動じていない。 翼に敬語を使っているからおそらく階級は下なのだろうが、周りもこの少年を避けて通っていく。 まぁ、これだけ沢山の書類と封筒を抱えていれば当たり前かもしれないが……。 「ねぇ、あの……三村……君?」 勇気を出して翼は尋ねる 「はい?」 「その沢山抱えてる物……何?」 「これですか?」 三村は目線で書類と封筒を見た。 「うん、それ」 「何といわれても……ただの書類と手紙の束ですけど……」 「いや、それは分かるんだけど……理由っていうか内容っていうか……」 頭を必死に回転させて翼は話す。 「……ああ、なるほど、そういう事ですか。詳しく言いますと、飛行報告書と先月の決算報告書。今月の予算と飛行計画書に整備班からの報告書。隊宛ての手紙 と個人宛 ての手紙。後は……、今年は101隊長が教官長なので、青北基地から君達練習生の訓練報告、それに交友関係や生活態度、そんなところですかね」 「交友関係に生活態度!?何でそんなものまで?」 「……それが、必要だからですよ」 三村はゆっくりと答えた。 「教官と助教となる隊長、そして副長達にはミスは許されません、君達の能力、性格、そして適性。これら全てを判断し、配属か再訓練か決定します。今、我 が軍の戦況は非常に芳しくありません。一人でも多くの人材が欲しいのです。そのためにも出来るだけ早く、そして正確な判断が必要なのです」 ニコリともせずに三村は答えた。 先程までとは、まったくと言っていいほど雰囲気が違う。 翼は自分達の教官だった田中大尉のことを思い出していた。 明るくて、背が低くて、子供っぽくて、他の教官にからかわれているような人であり、声を荒げることはほとんどなかったが、とても目が鋭い人だった。 基地を 脱走して買い食いしたときには、怒り狂う先輩達と教官たちを尻目に笑っていたが、一度だけ命令違反をした時には本当に殺されるかと思ったものだ。 「……なーんて。全部『1』隊長の受け売りですけどね」 おどけて三村が言った。 穏やかな笑みが顔に戻っているのを見てホッとして翼は尋ねた。 「もしかして、それを言っていた『1』隊長って……101隊の石月隊長のこと?」 「はい、そうですが……101隊長の名前まで、よくご存知ですね」 「うん、有名だから……」 そりゃ知っているに決まっている。 休みに帰ってくるたび、ずっと兄に話を聞かされてきた101隊の勇士たち。 前の大戦の英雄。北都基地のエース、石月隊長。 元東都基地のエース、田島大尉。 元南都基地のエース、大橋大尉。 そして隊長の絶対的な護衛機、寡黙な副長、三村中尉。 兄にいつも話を聞かされていたこの人達に、一度命を助けられて以来、今や翼の中ではちょっとしたヒーローになっている。 「着きました。ここですよ」 扉には『大和王国国防空軍・第101戦術戦闘飛行隊・搭乗員待機室』と書かれていた。 よし、ここだ。 翼は気合いを入れた。 三村が扉を開ける。 ん?三村……? 翼が何か違和感を感じたのは、扉が完全に開いた後だった。 第五話 3 完 |