第五話
2 林檎 翼の『大丈夫』という言葉を聞いて、ほっとしたよう言う。 「よかった、怪我させたかと思いましたよ」 そしてゆっくり微笑んだ。 かわいらしい笑顔に、思わず少しの間見とれていた。 少年は翼を不思議そうに見つめて、「……どうかしましたか?」と尋ねてくる。 正気に戻った翼は慌てて、「な、なんでもないよ!」とそれを誤魔化した。 笑顔に見とれていました、なんて言える筈がない。 立ち上がって見ると小柄な少年である。自分より少し背が高いようだが、160cmもないだろう。髪は少し長めできれいな黒髪だった。 「では、私は急ぎますので…」 「ちょ、ちょっと待って!」 少年が立ち去ろうとするのを翼は慌てて呼び止めた。 「あ、あの! ……実は、僕、今日配属されて、どこに何があるのかがわかんなくて……」 これまでのことを説明をしながら少年を観察する。 制服ではなく戦闘服を着ていることから、幹部ではないだろう。 襟章と左胸の『ネームプレート』がない以上、階級と名前は分からない。それだけでなく、これが着替えなのかは判断がつかないが、この少年の制服には国旗 と国章、連合国軍章といった基本的な(パッチ)ワッペンしかついていないのだ。 軍服を着ているので一応軍人みたいだが、軍服よりも学生服のほうが遥かに似合いそうだ。 手には大量の書類と封筒を抱えていた。 「……なるほど、要するに隊長に会いたい、と」 翼のネームプレートを見ながら少年は言った。 練習生とはいえ、翼はパイロットである。 少尉であることを示す襟章と左胸のネームプレート。右胸にはパイロットであることを示す技能章のワッペンがついてある。後は部隊章のワッペンがあれば完 璧だが、まだ 練習生の身であるため配布されていない。 「……わかりました、ついてきてください」 「えっ!?」 「……丁度、僕もそこに向かうところですから」 にっこり笑って少年は言う。地獄に仏とはまさにこのことだ。 「ホント!?ありがとう!さっきから迷って大変だったんだよ。ホントに助かった!」 翼がほっとして言うと、「いえ、困ったときはお互い様ですから」と笑っている。 いいやつみたいだな……。 翼はそう思った。 「それでは行きましょうか、えーと、あ…お……」 少年が『Tubasa・Aoba』と書かれたネームプレートを読んでいるのに気付いて、翼は慌てて名乗った。 「あ、翼、青葉翼っていうんだ。よろしく!」 そう言って右手を差し出す。 少年は穏やかな笑みを浮かべたまま言った。 「僕は三村といいます。これからよろしく、青葉少尉」 第五話 2 完 |