第一話
ブラックキャット 2 《不明編隊が急上昇!こちらに向かってきます》 《どうする!?このまま突っ切るか?》 低空から急上昇だ、そんなにすぐには上がれない。機体性能的には可能でも、乗ってる人間の体が保たないのだ。 田島の言うとおりこのまま突っ切ってしまえば、確かに敵の射程からは外れる。 だが、敵が引き起こしを続けたならば、敵にとって絶好の形、すなわちケツを取られることになる。 「いや、降下して正面ですれ違う、機銃を用意しろ!」 《……撃つの……?》 「威嚇だけだ、当てるなよ」 《……了解……》 《マジかよ……》 《やるしかないでしょう!》 当てろというのも難しいが、絶対当てるなという方がよりいっそう難しい。 機体を下に向ける。機内を警報音がこだました。敵の編隊はすぐそばまで近づいている。 前方に意識を集中する、するとチカチカと何かが光ったのが見えた。 「撃て!」 一斉に射撃を開始する。 振動が腕に伝わる。 途切れなく響く音、フラッシュのような火花、その光景は火の粉が前方に散っていくようだ。 チカチカと輝く光が近づいてきて、すぐ横を通り過ぎた。 真っ黒に見える機体が、威圧感を放っているように見える。 耳を劈くような風を切る音が、すぐ近くから聞こえた。 「旋回するぞ、ケツ取られんなよ!」 機首を上に向けると同時に、右に旋回して高度を上げる。 「あっぶねぇ、全員無事か?」 《こちら田島、一発擦った。いまんところ異常はない》 《……こちら大橋……全部よけたよ……被害なし……》 《こちら三村、僕も被害なしです。いま、先に撃たれましたよね?》 「ああ、完全に向こうの先制攻撃だ。……北都基地、こちらブラックキャット、不明編隊から攻撃を受けた!繰り返す、不明編隊から攻撃を受けた!」 無線に向かって叫びながら、首を回して相手を探る。右手上方に、点滅する様に光る赤い炎と黒い塊が見えた。 《ブラックキャット!損害は?》 小村の叫び声が聞こえる。 「田島が一発食らった。正当防衛だ!攻撃を開始するぞ!」 《待て!》 司令の怒鳴り声が聞こえる。 《オックス機と確認できたのか!?》 《拓実!そんなコト言ってるバアイじゃないだろ!攻撃されたんだぞ!》 小村が怒鳴り声が聞こえた。 「確認は出来なかった!この暗さじゃ無理だ。敵編隊はおそらくF−16が四機。オックスの空軍って考えればしっくりくるだろ?」 《ファルコンならバルカにも配備されている!許可はできん!》 《敵機、散開しました!》 司令の声にかぶさるように、三村の声が聞こえてきた。 「よし、こちらも散開。一人一機がノルマだ。102が来る前にカタをつけちまうぞ!」 《石月!交戦許可はまだ出していない!!》 「うるせぇ! こっちは仲間やられるわけにはいかねぇんだ。いくぞ。……ストーンヘンジ、交戦」 《お前達、命令だ!直ちに戦闘を停止しろ!交戦許可はまだ出していない!権限はこちらだ!石月ではなく、私の命令に従え!》 司令の絶叫が機内をこだました。 《なんか叫んでますけどー、どーします?》 《決まってんだろ、うちの隊長は一人だ》 《……そゆこと……ブリッジ……交戦……》 《ライスフィールド、交戦!》 《ヴィレッジ、交戦!》 各機が散開していく。 《おい!貴様ら、ただじゃ……ぐはっ……》 《じゃまなんだよ!どけ!!》 小村の怒鳴り声が聞こえ、司令の声が聞こえなくなった。 《顔面ですかね……?》 「いくらなんでも顔は殴んねぇだろ、後頭部」 《じゃあ俺は側頭部!》 《……脇腹……》 「よし、いつも通り昼飯代な」 石月は目を忙しなく動かすと、前方にいる敵に照準を合わせる。 速度を上げながら敵機を捉えると、コンピュータがロックオンを開始した。それに気付いたのか、敵機は急降下しながら、大きな弧を描いて旋回していく。 石月は少し速度を緩めながら、敵より小さな弧を描いてそれを追う。 旋回しきったところで速度を上げ、敵の後ろに張りついた。 敵も黙ってはいない。直ぐ様上昇に転じると、そこから石月を突き放すように暗い海目がけて急降下していく。 石月も離れず、ぴったりとついていく。 追う方だからといって無理に撃ち落とそうとすれば、逆に後ろを取られることにもなりかねない。百戦錬磨のパイロットとなれば、後ろを取る方法など何十通 りとあるのだ。 海面ギリギリを敵は這うように飛んでいく。 石月は機銃に切り替えると、射撃を開始した。 水面に水柱が上がる。 敵は焦ったのだろう、機首を引き上げると、急上昇に転じた。 願ってもない機会は巡ってきた。 確実と言ってもよい程の割合で、敵は意識を飛ばすだろう。仮に意識を保ったにしても、判断が遅くなるのは間違いがない。 石月はあえて敵の飛行ルートをなぞる。 上昇するや否や、強烈な圧迫感が体を襲った。息が詰まり、空気がうまく吸えなくなる。 顔を覆うようにしているマスクを外してしまいたいが、それだけは出来ない。 石月は左手でマスクを押さえると、再びロックオンを開始する。 ピーという電子音。 赤く光るモニター。 SHOOTという表示。 血が煮えたぎるような感覚が体を包んでいく。 前方をグッと睨み付けると、石月はミサイルを発射した。 白い軌跡がゆっくりと敵に近づいていく。やがて前方で大きな光が上がった。 石月は上昇を止め、水平飛行に移る。 上を見ると、火の玉となった機体の傍を、パラシュートが漂っているのが見えた。 敵の脱出を確認し、石月はホッと息をつく。 「こちらストーンヘンジ、敵機を一機撃墜。脱出を確認した」 《了解、被害は!?》 「ない」 無線の向こうで小村が息を吐くのが聞こえた。 《りょーかい、102がそちらの空域に入った。到着次第引き渡していいよ》 「了解、お前ら、もうすぐタイムリミットだぞ」 《わかってるっ!》 田島が声を上げた。 続いて、右手の方から光が上がるのが見える。 《こちらライスフィールド、敵機を一機撃墜。脱出は………あっ、今確認した》 《ブラックキャット、敵編隊の二機を撃墜!》 小村が戦果を読み上げる声が聞こえる。 《ヤバいですよ、レンさん。このままだと、僕らだけおみやげなしになります》 《……そうだね……それは避けないと……》 下の方で再び閃光が起こる、と同時に、遥か上方でも光が飛び散った。 《……ブリッジ……敵機を一機撃墜……脱出を確認……》 《こちらヴィレッジ、敵機を一機撃墜。脱出を確認しました》 これで敵編隊を全機落とした事になる。 石月はようやく緊張を解き、ふーっ、と息を吐き出した。 「……りょーかい。みんな、ご苦労だった。帰投するぞ」 《了解!》 三人の声が重なった。だが、そうは問屋が卸さなかった。 《……石月さん。盛り上がってるとこ悪い、そちらに一小隊向かってきてる》 《はぁ?》 田島が叫び声を上げた。 《これって、やっぱ狙われてますかね?》 《……たぶん……》 「確実、だな……」 どこから嗅ぎつけてくるのかは知らないが、たまに出撃すれば必ずこうなる。 恐らくスパイでも紛れ込んでいるのだろうが、いい加減、そこらのパイロットじゃかなわないと学んでほしいものだ。 《……石月隊長!》 ここで無線から新たな声が聞こえてきた。 《荒川です、遅くなりました!》 「荒川隊長か、すまん、増援感謝する。聞いての通り、さらなる敵編隊が向かってきている」 《わかってます、こちらで引き受けるので、101はサポートをお願いします!》 「了解だ」 荒川は若い、といっても三村と同い年だ。実戦経験は少ないが、実力はある。 《いくよ、康ちゃん!みんな!レッドドラゴンワン・リバー、交戦!》 副長の須崎に声を掛け、速度を上げながら荒川の機体が通り過ぎていく。 《了解。でも健ちゃん、頼むから突っ込まないでよ!後始末がめんどくさいんだから!》 須崎の二番機が続いた。 さらにその後ろを、三、四番機と続いていく。 《二人とも、気ぃつけてよ!》 《《大丈夫!》》 三村の声に、荒川と須崎の二人は声を上げた。 《……どっからあの自信はくるんだ》 《……まぁ……あれが二人のいいところ……だね……》 「確かにな……」 《三人とも、ぼさーっとしてないで、追っかけますよ!》 「はいはい」 基地に帰れるのは当分先だな、石月は軽くため息を吐いた。 第一話 2 完 2005年12月30日 掲載 |