第一部 消えゆく平和

序章 雪山の出会い



北都峠バス転落事故

第一話
プロローグ



2000年12月28日 午後 1時28分 北都山渡会峠 国道5号

 
 
 僕が初めて彼らを見たのは、卒業旅行中に山で事故にあったときだ。
 
 そのとき、僕はまだ将来何になるかなんて考えてなかった。
 チームの仲間が次々と進学先を決めていく中で、僕は毎日、ただなんとなく生きていた。
 
 小さな島国である僕たちの国では、小さい頃から熱心な教育が施される。
 学校の成績がわりとよかった僕は、担任に毎日呼び出され、進路先を早く決めるように、と説教をうけていた。
 確かに、私立の学校に行けば、将来的にはかなり有利だ。だが、あたかもそうしなければいけないかの様に言われるのは、とても気分が悪かった。
 かといって、軍に志願するつもりもない。多くの友人のように、とりあえず受けるだけ受けておこうという気にもなれない。
 サッカー以外では特にしたいこともなく、ただ淡々と過ぎる毎日。
 そんな毎日に嫌気が差していた時にこの卒業旅行の話が持ち上がった。
 トップチームに入っていた選手みんなで、一泊二日の温泉旅行に行こう、というもので、僕はすぐに飛びついた。
 僕たちのチームは当 時、サッカーにおいて県内でもトップのチームだった。


 当日、バスは順調に峠を走っていた。
 カラオケをする者、トランプをする者、暴露話で盛り上がる者、そのまま目的地まで無事に到着するはずだった……。

 バスが下りに差し掛かった。
 僕はたまたま先頭付近に座っていたため、前方をよく見ることが出来る。
 だが、不意に全身に寒気が走って、僕はまじまじとフロントガラスを見つめた。
 虫の知らせというのだろうか。
 何かが起こる、そんないやな予感がして仕方がなかった。

 バスがカーブに差し掛かる。
 そんな僕を見て、隣に座っていた健が「どうかした?」と声をかけてきた。
 僕は何も言うことができなかった。
 
 目の前で、ワゴン車が横転していた。

 あわてて運転手がハンドルを切る。
 ワゴン車はよけたものの、その先にはガードレールしかなかった。
 健の「あぶない!」という声と、バスがガードレールを突き破るのは、ほぼ同時だった。

2005年3月13日 掲載